【ウイルス】ウイルスの細胞内での増殖の仕方
一般的にウイルスは次に示したステップを経て、宿主の細胞の中で増殖することが知られています。
本記事ではそのステップを、「吸着」「侵入」「脱核」「合成」「成熟」「放出」の六つのステップに分けて紹介します。
吸着
感染する宿主の細胞の表面に、ウイルスがぴたっとくっつくステップ、それが「吸着」である。
エンベロープウイルスは、吸着専用のタンパク質をエンベロープ表面に持っている。このタンパク質を使って、宿主の細胞の細胞膜表面にあるタンパク質などにくっつくのである。
もちろん、細胞が「ウイルスが吸着するための」タンパク質を持っているというわけではない。細胞は、さまざまなタンパク質を細胞表面に出しており、これを使って外部からのさまざまな情報をキャッチし、分裂したり、分裂をやめたり、分泌用タンパク質を作って分泌したりといったさまざまな反応を起こす。
侵入
感染する宿主の細胞に吸着した後、その内部へとウイルス、もしくはウイルスのDNAやRNAが入り込むステップ、それが「侵入」である。
エンベロープウイルスの場合、エンベロープそのものが宿主の細胞膜と同じ脂質二重膜でできているから、その侵入時には、エンベロープと細胞膜が融合し、中身だけが細胞内部に侵入する。
また別のエンベロープウイルスでは、エンベロープが細胞膜と融合せず、エンベロープごと細胞膜によって覆われるようにして侵入する。そうして細胞膜に覆われてあぶくのような状態になったものを「エンドソーム」と言う。
ノンエンベロープウイルスでは、細胞膜表面にぺたぺたと吸着したウイルスは、「被覆ピット」と呼ばれる細胞膜の"くぼみ"の中に溜まっていき、やがてそのくぼみが細胞質側にくびれることで、ウイルスは細胞内へと侵入する。
脱核
さてウイルスにとって、侵入しただけでは事は進まない。
タンパク質の殻を壊し、ウイルス自体の核酸を細胞質内に解き放すステップのことを、「脱核」という。したがって、侵入段階ですでにDNAを注入してしまっているバクテリオファージには、改めてこのステップを行う必要はない。
合成
侵入し、脱核した後、ウイルスは細胞の中で、何をするのだろうか。
何をするもなにも、バクテリオファージに至ってはDNAだけが細胞の中に侵入するわけだから、そこですることはたった一つ。
そのDNAにある遺伝子の情報をもとに、ウイルスのタンパク質を作るとともに、DNAをまた複製し、たくさんの"子"ウイルスを作り出す事だ。
すなわち、「合成」である。
RNAウイルスの場合も基本的には同じだが、RNAウイルスの内レトロウイルスではいったんRNAからDNAを作らなければならないから、少々ややこしいステップが必要だ。
成熟
「合成」過程で作られた核酸とタンパク質は、分子レベルで構築された筋書きに沿って、おそらくは淡々と"子"ウイルスへと組み立てられていくはずだ。
この過程が「成熟」である。
いずれの「組立て」の場合も、合成された核酸と合成されたタンパク質は、細胞質内のたくさんに物質の細やかな動きに押し合いへしあいされながら、徐々に集合してウイルス粒子に組み立てられるのだろう。ウイルスによっては、細胞質内に張り巡らされている「細胞骨格」と呼ばれる網目状の構造を"手すり"の代わりに使い、細胞質内を移動するらしいから、そうした細胞の構造を、これまたちゃっかり利用して、うまい具合に"子"ウイルスを組み立て、成熟させているのだろう。
放出
「放出」にも、大まかに二つのパターンがあるようだ。
一つは、細胞を殺して出て行くもの。
そしていま一つは、細胞を殺さずに出て行くもの。
細胞を殺して出て行く場合、それを「細胞崩壊」という。細胞の内部に成熟したウイルスが溜まってくると、食べ過ぎてお腹が破裂するかのごとく、細胞膜が破れ、ウイルスが一気に撒き散らされる。
一方、多くのエンベロープウイルスは、細胞崩壊ではなく、「出芽」という方法をとる。この方法では、細胞崩壊ほど劇的に細胞を殺すわけではない。しかしウイルスが感染し、内部で増殖する事自体が細胞にとっては異常事態であるから、細胞の"健康状態"は損なわれる結果となる。